忘却前夜.

日々、感じたことを忘れてしまう前に書き置く場所。

Lullabyを咀嚼する。

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「なんて、悲しい歌なんだろう」

そんな言葉が、この曲を聴いて一番最初に頭に浮かんだ。小さな部屋の隅、安物の白いCDコンポの前で、私はいつの間にか泣いていた。
枯葉が舞うように、はらりはらりと落ちる涙を拭うこともできなかった。

……

”夏草の緑も いつかは枯葉になり
幾年か先の草花たち支えるように 土へと還る”

そんな詩の一片のような歌で始まるコブクロの新曲「Lullaby」。
私はこの曲を初めて聴いた時以来、未だにこの曲を気軽に聴くことができない。冒頭でも書いた通り、今の私にとってこの歌はあまりにも悲しすぎるからだ。あまりにも優しすぎるからだ。

今私の身体の中心辺りから溢れ出る歪な感情や切なさを、私自身が受け止めて飲み込み切るために、私なりのLullabyについての向き合い方、身勝手で的外れかもしれない解釈や感じ方を此処に書きとめていきたいと思う。


……

まず、この曲のタイトル「Lullaby」
日本語にすると「子守唄

コブクロらしい、なんとも優しく暖かいテーマ。
曲の中でも、草木や季節の移り変わり、なんでもない日常の瞬間の愛おしさを、木漏れ日の中でページを揺らす"詩集"のような優しい言葉で歌詞に落とし込んでいる。

コブクロにしては珍しい、文字数の少ないコンパクトな歌。そして、そのコンパクトさに似つかわしくない言葉の密度と物語性。私はこの歌のそんなところに"詩集"に近いものを感じたのかもしれない。

歌割りも新鮮で、小渕さんと黒田さんが一節ずつ、大樹の年輪を重ねるように、刻み込むように歌を織り上げていく様がとても美しい。オンラインライブで初めてこの曲を聴いた時は、この二人はまだ私たちに新鮮さを感じさせてくれるのかと心から感嘆した。


要するに好みど真ん中、雰囲気も含めて文句なしの最高の曲なのだ。

そう、最高の曲なのだ。なのに、私はこの曲をまだ片手で数える程しか聴けていない。

 

それは、私にはこの歌のある詞が、歌の中の人物ではなく二人自身のことを謳っているように感じてしまうからだ。

”いつの日か僕らも 眠るのさ 僕が先に”

この一文。このたった一文でこの「Lullaby」という曲は私の感情を大きく動かし、激しく揺さぶった。

この詞を聞いた瞬間、切なさなのか、儚さなのか、悲しみなのか、痛みなのか、未だにうまく言葉にできない感情が溢れてきた。


「出逢い」というものには、例外なく「別れ」が付随している。それがたとえどんなに好きなものでも。どんなに大切なものでも。

私は、人生の半分以上を二人の音楽と共に過ごしてきた。コブクロの音楽に出逢うために私は生まれてきたんだと胸を張って言えるし、今この瞬間だって本気でそう思っている。だからコブクロがいない世界で、コブクロの音楽がない世界で、今と変わらず生きていく自信が私には正直ない。無いと断言できるほどに無い。

今までもこれからも、別れなんて想像すらしていないのに。彼らはこの上なく優しい言葉で「別れ」を描き、歌いきっていた。


「頼むからそんな悲しいことを、そんなに優しい声で歌わないでおくれよ。」

涙と一緒にそんな身勝手で我儘な感情が頭と心に渦巻いた。

 

だが、彼らはそんな言葉の後にこんな歌詞を続けている。


"おかしな悪夢に安らげない そんな夜は
懐かしいシネマにチャチャ入れて 笑おうよ
ただ通り過ぎてくこの時間も
幾年か先の日々を支える 想い出になる
今日を愛しく "

 

不安も恐怖もあるだろう。
眠れない日も、安らげない日もあるだろう。

それでも、

二度とは訪れない、この日々を愛おしむ。
刹那に過ぎ去っていく、今日という日を愛おしむ。いつか来る「別れ」を笑って受け入れるために。

 

「例えば僕らがいなくなったとしても、あなたは日々を生きていくんだ」

「当たり前に過ぎていく時間を、当たり前のうちに刻んでおくんだ」


そんな言葉が聞こえた気がした。

私が今まで何百何万と擦り切れるほどに聴いてきた声で、どの曲のどのフレーズよりも優しく愛おしむような声で紡がれる優しい言葉たちの中に、そんな言葉が込められているような気がした。

 

ああ、なんて悲しい歌なんだろう。
なんて悲しくて、優しい歌なんだろう。

無意識に目を逸らしていた不安も傷も別れも、
美しく肯定されてしまった。
また性懲りもなく、コブクロに救われてしまった。



……

この記事を書いてみて、気が済むまでこの曲を咀嚼した頃、私は再びこの曲の再生ボタンを押せる気がするのだ。いつの日かやって来る、哀しくて優しい眠りを、受け入れられるような気がするのだ。


今夜は、二人の歌で眠りに就こう。
明日からの事、今は少し忘れて。

おやすみ。